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Outline

■ クライアント

  おおいずみ内科ハートクリニック
  アシストプラスアルファ


■ 実施期間

  2021年9月~2022年4月【8ヶ月】


■ 体制

 P アシストプラスアルファ
 D 笹倉
 Designer 笹倉 / 会田
 Sign エル・プラント
 Photo 高野裕輔

2022年春、富山市にあるクリニックが開業された。
穏やかで優しい空気感溢れる病院だ。
院長の北川先生をはじめ、様々な人の想いが詰まったこのプロジェクトに、BSHはクリエイティブディレクターとして参加させてもらった。

vision

先生、建築家の思い
おおいずみ内科ハートクリニック院長 北川先生には病院をつくるにあたって、ある思いがあった。
「患者さんが病気でなくても相談できるような病院にしたい。」という思いだ。
もちろん治療や薬で病は改善される。だが、根本は心にあって、その心に寄り添えるような病院を作りたい。若い方から高齢の方まで、病や不調を抱えた人が、その人らしく生きられるように支えたい。という考えからである。
本来、病院というものは不調が見え出してから行く場所。薬の処方、病の治療を目的として行く場所だと思っている人が大半ではないだろうか。
そして、多くの病院は事務的でなぜか冷たさを感じる点がある。病院が嫌い、怖いという印象はこういった雰囲気からきているのではないだろうか。
だとすれば、ハートクリニックはどんな病院であるべきなのか?
この病院の建築を担当した、アシストプラスアルファの沢本 雅彦氏の意図は、近所のおじいちゃんおばあちゃんが用もないのに来てしまう、居座ってしまい帰りたくなくなる病院。同じような目的、悩みを抱えた者同士のささやかなコミュニティがこの病院にできてほしい。
「元気だった?」「最近膝の調子が悪くて」こういった何気ない会話が生まれるような場所だ。
病院に行くという感覚ではなく、気軽に立ち寄れる憩いの場所としての病院。
そんな病院があったら確かに素敵だ。

病院外に設置されている”だれでもベンチ”は、登下校時の学生や、病院に来た人、近くを通りがかった人が、自然とそのベンチで譲り合いをするようなベンチ。このベンチを設置することで、思いやりの掛け合いが生まれるのではないか。こういった澤本氏の願いや優しさが、ハートクリニックには随所に散りばめられている。
人が人を介して人の優しさに触れることで、自然と心温まる。
北川先生、澤本氏の思いや願いに私たちも深く共感し、プロジェクトは始動した。

process

新しい病院のありかたを考える
病を抱えている人や、老化によって体が思うように動かなくなってきたという人にとって、共に歩み理解してくれる存在は大きい。ハートクリニックはそういった、共に歩んでいく存在であるべきだと考えている。
大型の病院は、最新技術、専門分野に特化した先生を取り入れ、ひとりひとりの病や怪我の治療と向き合っている。だが、大型の病院では応え切れない課題もあると考える。それは、”人の心に寄り添う”ということ。
この役割をハートクリニックは担っている。日々を肯定的に受け入れられるよう、心に寄り添う病院。
これはハートクリニックの価値だ。

デザインするにあたって
先生や建築家の考えに触れたことで、段々とデザインのイメージが具現化していった。
いつもならターゲットを意識しデザインを作成するのだが、今回は商売が目的ではない。
クリニックに訪れた人の目線の先にあるもの、患者さんと先生の目線が横並びになるような意識を持ちデザインを進めた。
今より良くなった未来。一歩一歩の前進。ひとりひとり改善のスピードは違う。高齢化していく自分自身の体に向き合い、受け入れ、その中でどんな日々を送っていくのか。漏れ出た光が溜まりそこだけが明るくなっている「ひだまり」のような雰囲気を表現したかった。
歩みが遅くなったことで見える景色や、目に留まるものは沢山ある。改めてモノや人生の価値を再認識できるような優しいデザインがハートクリニックには必要だった。

ディテールの部分
建物の裏手に中学校がある。テラスからは校庭が見え、校庭の脇に生えた桜の木が象徴的だ。医院からの景色として切り取られたその桜は、とても美しい。桜の木には何かが始まるような予感や、一つの区切りになるような爽やかで切なさもあり情緒的な印象を受ける。
ハートクリニックという医院の名前や、心臓内科だという事から、ハートマークを用いてほしいという要望が先生からあった。
だが、一般的なハートマークというものは人工的で、脚色された自然体ではないような印象を受ける。制作を進めていく中で、綺麗なシンメトリーや人工物感がある形は、このクリニックの柔らかい印象に対して不釣り合いだと感じた。
北川先生や澤本氏との対話を重ね、商売上手で「器用な人」の印象ではなく、お客さんや患者さん思いで、ビジネスに対して「不器用な人」の印象を受けたからだ。それが二人の良さであり、患者さんやお客さんから愛される要因なのではないかと感じた。
このことから、無骨さ、不器用さ、という言葉が形を造る上でのキーワードとなった。
そして提案したロゴマークは、角が取れていない無骨なハート。また、桜の花びらが舞う姿を表している。文字の色は青空をイメージした色だ。
書体を含め、全体的な狙いとしては、彫刻刀を使って形を作ったようなイメージだ。学校の工作で作ったような、歪だが味がある、暖かい印象をこのロゴには持たせたかった。
そして下図のロゴマークが完成した。

看板の視認性
次に、課題となったのがサインや看板の設置場所と見せ方だ。
クリニックが位置している場所は、交差点に位置していて、四方向からの視認性か必要となる。医院の前の通りには住居や、昔から営んでいるような個人商店が多く並んでいる。そして医院の裏には中学校がある。
このことを踏まえ、設置するサインには二つの条件が必要だった。
①看板としての視認性。
②病院や周りの環境のイメージが損なうような派手さを持たない。
つまり、目立たせる事と、目立たせない事を同時に行うという条件だ。

車で付近まで来た際、どの角度から見え始めるのか、どの場所にあれば目に入るのか。建築家を含め、何度も位置関係の検証を行った。
クリニックには小さな子供からお年寄りまで病院に訪れる。看板を主張させすぎると空気感を壊すため、景観に溶け込ませつつどの道路から通っても看板が視認できる敷地の角の位置にL字看板を設置し、その目線の先にある建物壁面にも控えめにロゴを配置した。

思いや考えや目的などに沿ってデザインを作っていくことも私たちができることの一つである。
町に溶け込むデザイン、目的を優しく伝えるデザイン、商業を後押しするデザイン、デザインには様々な伝え方があり、今回のプロジェクトは主張するためのデザインではなく、思いを届けるためのデザインであった。
何十年先もハートクリニックがこの交差点の景色として、この町の人たちの憩いの場として愛されていくことを願っている。